タイトル特になし。読み切り,物語。

この町は嫌いだ

みんな歪んでいる

僕の好きなものなんてない

いや、ここにないんだ。

だから、嫌いなんだ。

こんなところにいるから……

視野が、歪んだ世界で埋まっているから……


 『…病院。はぁ…』

そう、今、僕は入院している。

入院する前は、小学校でいじめられていた。

ある時、生まれつきのとある病気の発作で、僕は入院した。

そして見る景色は毎日、病院からの外の風景。

 『…楽しくない…』


二日後、交通事故で入院して来た女の子が、同じ入院室に入ってきた。

同じ小学生くらいの子だ。

普通なら好奇心で、話したくなるところだろう。

けれど、僕の心は病院生活で歪んでしまっていた。

そんな僕から声をかける気力さえない。


そんなあるとき、彼女は痛めている右腕でパックジュースを飲もうとした時、それが滑って落ちた。

彼女はゆっくりと身体を起こし、右腕を左腕で抑えながらジュースをとろうとする。

けれど、他にも痛む場所があり、回避したのだった。

僕は歩いて、それをとってあげた。

 『…はい。』

パックジュースをテーブルに置く。


そしてベッドに戻って暇を潰す。

肘立てて外の風景をみる。

そこで、視界に入ってくる視線がある。

ジュースを落とした彼女の視線だった。

怒った様子も、困った様子もなく、ただ不思議そうに、右腕にパックジュースを持って、少しの間、僕を見つめていた。


僕は無視することにした。


数分経った位……彼女がナースコールを鳴らした。

看護士さんがやってくる。


看護士と彼女が小さな会話をする。

すると、看護士さんが僕の方へ来た。


 『黒須君…彼女が、ジュースをとってくれてありがとうって。』

 『はい…』


薄い返答だった。

どうでもよかった。

そう、僕の心そのものが病気になってしまっていたんだ。


翌日、朝、目が覚めて、食事も軽く。

元気のない生活。


彼女はどうしてるだろうか?

ゆっくりと、よく噛んで食事をしていた。


暇だから外の景色を眺めてた。

彼女は眠っている。


そして数日が経った頃………


彼女は手術を受け、成功した。らしい。

僕はただ情報を耳にしただけで本人には直接聞いてはいない。

どんな病気なのかも知らない。


こんなに世界を嫌っていた僕は、いつの間にか少女に好奇心を寄せ始めた………


二週間後。少女は普通の子供みたいに元気になった。

たまに親がお見舞いに来る。最初は身動き一つなかったけど、今では笑ったりもする。

僕は少女の笑顔を始めて見た。


僕の親はまだ一回しかお見舞いに来ていない。

仕事か何かで忙しいんみたいだ。


僕の病気って何だろう。
何も詳しく聞いていない。


僕がいつも通り、ベッドの上で外の風景を眺めていると、少女が近寄ってきた。


 『ねぇねぇ、何してるの…??』


少女は言った。
僕は………


 『……………』


返事をしなかった。
すると、

 『ねぇ、どこが悪いの…?』


少女はそんな質問をしてきた。


 『……わからない』

僕を外の景色を見ながら言った。


 『身体は悪くない?』

 『……大丈夫。』


と、答えると、少女は思わぬ発案をしてきた。


 『じゃあ、外に行こう』

 『……なんで?』

 『寂しいから…つまわないし。』

 『………』

 『外暖かいよ?』

 『……うん、いいよ…』


その日をきっかけに僕らは仲良くなった。


と、言っても少女の方から一方的に誘ってくるのを僕が受け入れるだけだった。


入院して一ヶ月。

少女はどこも悪くなさそうだ。
なのに、少女は退院しない。

そして僕は……


 『源希、帰りますよ。ごめんね、お見舞い中々来れなくて。』

 『…うん、いいよ。』

僕は今日、退院する。

 『お母さん、先に看護士さんたちにお礼を言ってくるから、待っててね。』

 『……うん』

母さんはそう言った。
それからすぐ、少女がベッドから飛び下りて小走りで近寄ってきた。

僕の上着の服の裾をギュッと掴む。

そして……


 『源希君って言うんだね。名前聞いてなかった。わたしは光。ずっと入院してるからたまに遊びに来てね、源希君。』


少女は今までで1番輝いていた笑顔を見せてくれた。


 『わかった、また来るよ。えっと、ひかりちゃん。』

 『うん。待ってる。楽しかったよ。』

 『僕も。じゃ、バイバイ。』


そして僕は退院し、小学校を卒業し、中学校も卒業し、無事、高校生となった。

そんな僕は普通の生活を送れている。

そのために……大切な何かを忘れてしまったのかもしれない。