紅蜥蜴


創世から約十四年……


セアはユウを育ててきた。

ユウの生活を見守りながら。

しかし、セアは一つだけ、知らなかった。

そう、ユウに聞こえる謎の声。

それを知っているのはユウだけだった。

それからユウの感情は変わって行く。

三人の男の子が消えた事件の日以来、ユウに対して悪い噂が学校中に流れ始めた。

ユウの感情からは、明るい笑顔は見えなくなった。
無表情と苦笑い。作り笑い。

そして日々聞きとる周囲の人々の声、感情、感覚。

ユウの心には、負の念が溜まっていった。

そう、まるで『闇』の『ソル』のように……。



ただ一人、ミュウだけは周囲と違い、ユウの傍にいつも通り居続けた。



変わった日常。

しかし、それには『終演』と『開演』が近づいていたのだった。


ユウが家に帰った時、事件は起きていた………。


ユウ 『母さん!? 母さん!』


セア 『…ユ…ウ…イ…キナ…サイ…』


ユウ 『母さん!かぁさぁあん!!』


セア 『イ…キナサイ…』


セアは息をとった。

彼女が言っていた言葉、『イキナサイ』。

この意味は『生きなさい』だったのだろうか、『行きなさい』だったのだろうか。


ユウが家に帰った時、門の前で目にした光景。

家が焼けていた。
燃えていた。

ユウはすぐ中に入り、セアの無事を確かめようとした。

が、時すでに遅し。

セアは息をとり、亡くなった。

窒息、だろうか。


ユウは母の死を前にして、悲しみと怒りが舞い上がる。

こんなことを起こそしたのは何なのかと。

犯人を捜す意思が動いた。


救急車が駆け付ける。

後に、近所に住んでいたミュウも、心配そうに様子を窺っていた。


ユウは、直感で犯人を捜していた。

身体が勝手に動いている。


直感で、例の『レマル』がいる森……そこにユウは入っていた。


ユウは警戒を出し、まるで動物のような感覚で森を進んでいく。


そして……ユウの足は止まった。


前に何かがいた。


ユウ 『……!? 化け物?! 』

化け物 『……………………』

ユウ 『ガスの臭い……! ……っ……ぉ…ぇか…』

ユウ 『…おまえが母さんをやったんだな!!』

化け物 『……………』

ユウ 『……が…!!!』


ユウはただ怒りと憎しみと悲しみしかなかった。
三つの感情が高ぶり、ユウは唸り出し、やがて…………形と,なった。


ユウ 『………ぐぅ…があ…!』


それは『ソル』だったのだろうか。

ユウの左腕が黒い影身に纏う。

やがて、形となる。

それは、奇妙な形だった。

指が牙に。

皮膚は黒く分厚く少し赤みを帯びて血管でも浮き出ているような様。

手の甲に目がついている。

目玉は鋭く…。

もし、これが『ソル』ならば……具現化が起きた、ということだろう。
それも奇跡の。
何故なら、ユウは『ソル』を失っていたから。

更に『ソル』は増していく。

さぁ、ユウはどうなっただろうか。

想像…………,……


ユウ 『……ぁ……はぁ……』

化け物 『……ぅ…ら……』

ユウ 『おまえが母さんを!』


ユウは瞬時に黒い剣を具現化した。

そして、化け物に斬りかかった!


しかし、化け物は身体が斜めに真っ二つに斬られてもまだ生きている。


ユウ 『…………』

ユウは化け物を見つめた。

そして、剣を左腕に持ち替えた。

瞬時に、皮膚の真ん中の目玉が赤く輝く。

同時に……ユウの眼は紅く染まっていた。

化け物に対して目付きを鋭くしたユウは剣に『ソル』を溜め出した。

そして真上から剣を振り下ろした。

化け物は消えるように粉々になり地に落ちた。

それがユウの皮膚の目玉に吸い取られ、剣と左腕の具現化は一瞬にして元に戻った。

ユウは………


ユウ 『…母さん……くっ……ぅぅ…』


泣いていた。

ただ、可笑しい泣き方をしていたのだ。

眼は紅い光を帯び、右眼は普通の涙だが、左眼は赤い涙だった。


ユウはそのまま泣き続けた。

崩れるように。


このようなことが理解できようか。
できぬならばそこで終焉。


さぁ……ユウ=アレクゼントよ……そなたは独りでどう歩んでいく……?